今回はLeftover30の話をしたいと思います。
遡ること一年前
去年の夏頃、有り余るロングスペースキーキャップに思いを馳せながら、自キにもロングスペースバー入れてみたいよねーとなってた頃。
RowStaggerdで6Uスペース使うギリギリ30%とか作ったら楽しいかな
— 𓊬 ᙢᗩᖇḰ 𓊬 (@marksard) July 22, 2019
スタビ穴なんか行けそうなのでもう少しレイアウトを詰めてみた。
— 𓊬 ᙢᗩᖇḰ 𓊬 (@marksard) July 22, 2019
これ中々バランスよくていいんじゃないかな。
ただね、これ小さくないんよね…幅が0.75U小さくなったMiniVanなんだよね… pic.twitter.com/o0resfmnUV
この頃KUMO(MiniVan)を使って意外とRowStaggeredでも叩けるなと気付きがあったり、でもNOMU30はちょっと厳しい(スペースだけは親指が良いかな派)ので、RowStageredでちょっと作ってみたかった。
サリチルさんとロングスペースバーいいよねとあれこれ話してたのですが、この配列でグッとくる要素がなかったこと、この時はレクタンな形状にこだわっていたこと、あまり小さくないからこれならKUMO(MiniVan)で良いかとなって一旦終了。
今年の同じ時期
そのあとTreadstone60を作ったりTreadstone32のLite版を作ったりしてたのですが、ふとまたRowStaggeredで親指ありの30%を作りたいなぁ欲が出てきて再開。
— 𓊬 ᙢᗩᖇḰ 𓊬 (@marksard) July 17, 2020
11.25Uだとまぁまぁ小さいよねと。左上ちょっと空くのはまぁ良いかなと思ってたところ、古くからの相互フォローなhdbxさんに左のShiftとCtrl無い方が良いんじゃない?とアドバイスもらって…
1.5Uとかするとちょっと間延びした感じがしたので、さっきのがやはりちょうどいいのかな pic.twitter.com/zRw07cHhtp
— 𓊬 ᙢᗩᖇḰ 𓊬 (@marksard) July 17, 2020
左のShiftとCtrl無い方がたしかにカッコいい。使い勝手はTreadstone32などの10列系のキーボードと似た感じになる(文字キー単押/モデファイア長押しの2操作になる)
良さそうだったのでPCBを作ってみました。
やる気が発生したのでノリでPCB作った(面倒な配線はまだ…
— 𓊬 ᙢᗩᖇḰ 𓊬 (@marksard) July 19, 2020
ケースがホギィなぁ… pic.twitter.com/Zo9il7H2oM
アクリル積層やPCBでの積層は左下のラインをうまくまとめるのが難しいなと感じていたのでやるならアルミ削り出し…いや変態レイアウトに3万~5万とかのお金出してくれる富豪はこの世の中にはまだ少ないし試作だけでかなりのお金が吹っ飛ぶぽいので3Dプリントでいい感じにしたい…誰か氏…
オッと思ったけと、鋳造/削り出しあたりの話だなと理解してそっ閉じ。 pic.twitter.com/NL6Ic8qXHX
— y@hewi (@yohewi) July 19, 2020
自キ界隈では以前より3Dプリンタで数々のモバイルケースを製作されてる(過去にTreadstone32の蓋付きモバイルケースなどを作製いただきました。2020年の自キカレンダー9月にも載っています)沼人の会主催者のyohewiさんに興味を示してもらえたので相談することに。
これがTreadstone32のモバイルケース(塗装済み)
ケースの依頼、開発グループ発足…そしてわいわい
デザインはレトロでかわいい感じをイメージしてます~。こんなケースとかあんなケースとか~、みたいな感じでふわっとした要望をだしてたら、yohewiさんがyohewiさん、hdbxさん、私のtwitterグループを作ってせっかくだからこっちでやりましょう、と。
hdbxさんは海外のカスタムキーボード界隈の動向にも詳しく、わいわいと開発が急激に加速し始めました。
最初のPCBはあまり凝ったものでもなく、手軽にさっと組めることをモットーに以下のような仕様を想定していました。
- 6.25UスペースバーのRowStaggered30%
- PCBマウント(ケース外形のデザイン制約を抑えるため、ネジ部を張り出しをなくしているのでトレイマウントに近い)
- マウントプレートなしで5pinスイッチをはんだ付け
- 作りやすさ優先とBLEも視野に入れてPromicroを採用
- 右上バックスペース位置をアルチザンキーキャップ置き場にしてバックライト付き
- テープLEDによるアンダーグロー
といった感じでしたが、hdbxさんと最近のトレンドやギミックのアイデアなど色々と話していくうちに、下の機能が追加されていきました。
- 左下に独立した1Uアルチザンキーキャップ置き場、バックライト付き
- 左下、右下のアルチザンキーキャップ置き場はロータリーエンコーダも搭載可能
- ケースサイドにLEDを導光するアクリルパーツ搭載
- CapsLock、NumLockなどの状態を示すインジケータLED搭載
これらはデザインとしてはもちろん、ケース設計やPCB設計をする上で発生する制約をクリアしていく必要があって、うまく取り込んでいけるかというのを三人で話し合って設計物をレビューしてすりあわせていきました。
残念ながらオミットされた提案がいくつもあります。スプリットスペースバー、ガスケットマウント、プレート付属、MCU直付け、CNCアルミケースetc…これらも出来れば面白いでしょうね。
ケースはレクタンギュラー形状、外枠は少し厚めでサイドエッジのRも絶妙な大きさでボトムはハニカムデザインで傾斜5度という、この形状はyohewiさんが一番最初に出してくれたデザイン案をそのまま採用しています(一発でキメてきたyohewiさんすごいす)最終的にはこれにトップケースの上部外枠と内枠に少し大きめのフィレットを追加してもらって穏やかで可愛い印象にしてもらいました。
可愛いといえば、yohewiさんの手持ちフィラメントを組み合わせてのカラーバリエーションを写真に撮ってくれた時にそれらがすごくかわいくて、単色ではもったいないと思ってバリエーション展開して販売する方向にしたのでした。
ケースとPCBがほぼ完成してからも、ロータリーエンコーダを置いた時にPCBが見えるのが気になるからとカバーを作ってもらったり、ケースのネジ穴を増やしてもらったり、ネジ長さを揃えてもらったりと、色々なお願いを聞いてくれてありがたかったです。
発売
7/21にグループ発足、発売が8/26。びっくりするほど早かったです。
私ひとりだとPCB設計して寝かせて、ケース設計して寝かせて、製造したらじっくり試用して、キーマップを調整して、Twitterで写真のせて反応をみて、良さそうならじゃじゃじゃあ少しだけ販売もしてみるかー…といった感じなんですが、今回はケース設計・製造担当のyohewiさんが時間とフィラメントを爆速で消費してくれていたので(流石進捗の鬼軍曹)こちらも負けないようにやっていたら、いつのまにか良いなと思えるものが出来ていたという感じで。
30%の特殊な配列で販売前はそんな売れへんやろーと思ってたんですが、そこそこ数がでて作者もびっくり😊(ありがとうございます!)
海外の動向
販売後、redditで反応を見るために投稿したのですが、その影響で海外で一時動きがあり、輸入するにも販売価格がProMicroを使うキットにしては高いとかなんとかで、PCBから独自に起こして作成される方が現れました。
個人的に欲しいけど高いから自分で真似して作る、というのは動機としては正常だなと思いますし、キーボードのPCB設計自体は非常に単純で、ビルドガイドやQMKのピン設定やレイアウトから推測がとてもしやすく数時間もあれば外形のサイズの差異はあれどコピー基板は出来ます。ケースのほうは意匠やノウハウが詰まっていると思うので、データ販売は早々に終了していただきました。
最近もDropにLeftover30にsusuwatariをつけた写真を載せたらなぜか反応が良くて、Drop民は意外とreddit観ていない人がいるのかなと思ったりしました。
キーボードの特徴
あらためてキーボードの特徴を。
PCB
- 30%(ずれが変則ではないという意味で→)純Row-Staggeredレイアウト
- 30%キーボードなのにArtisanキーキャップ置き場(バックライトLED付き)
- 30%キーボードなのにロングスペースバー
- 30%キーボードなのにロータリーエンコーダー搭載可
- 左Modキーカット
- ISOエンター配置可
- インジケータLEDを2個搭載(デフォルトでCapsLock、NumLock割当)
- 柔らかい打鍵感を演出する1.2mmPCBとPCBマウント
30%で普通のずれ方したRow-Staggeredってなかなか無いですし、キー数少ないのにアルチザンキーキャップやロータリーエンコーダーを置いて楽しめるし、ISOエンターやロングスペースバーを贅沢に使える(通常、使い勝手やスペースを考慮すると両方とも選択肢から外れる)…という尖った仕様になっています。
ケース
- ハイプロファイル
- タイピングアングル5度
- 2ピース構造
- サイドグローLED
- ロータリーエンコーダー用カバーパーツ(左下用、右上用)
- ウェイト仕込みスリット搭載
- ウェイト貼り付け用の後付けパーツ対応
- 2ピース構造を生かしたカラバリ展開
レトロで趣のあるケースデザインにロータリーエンコーダーやサイドグローを取り入れています。
ロータリーエンコーダーを付けて小さいノブを使うと下のPCBが丸見えなので、カバーを付属させています。
また3Dプリンタ素材がケースとしては少し軽いので、鉛シート切ってスリットに仕込んだり、別売パーツの上に鉛シートを貼って重量を増すことによって打鍵時の安定感、打鍵音や、打鍵感の変化をカスタムして楽しめる工夫を凝らしたケースになっています。
ケースの高さなんかもギリギリまで調整してもらっていて、ほぼequinoxくらいの高さに抑えてもらっています。
ケース色
一回目の販売と二回目の販売でカラーが実は違っていて、一回目は爽やかなトーン、二回目は少しパキッとしたトーンになりました。一回目が終わったとき、違うフィラメントでも出してみたいねーみたいな話をした時に、yohewiさんがフィラメントをじゃんじゃん買ってくれたので実現しました。
私個人的にはどの組み合わせも最高ですね。桃x灰と白x薄青、スカイxオレンジ、ピンクxネイビーあたりは個人的にまだ欲しいです()
LED類
アクリルの導光とインジケータLEDが中々良い味だしてますね(自画自賛)
キーボードとしての使い勝手
まず左Modキーが無いのですが、QAZキーを長押しするとそれぞれWin、Ctrl、Shiftが割り当てられています。右Ctrl/Shiftを使ってAやZを打鍵すれば大文字入力やショートカットも問題ありません。
レイヤ-切り替えはスペースバー長押し、その右のキー長押し、その両方を同時長押し、でRaise、Lower、Adjustマップになります。そこにギュッと押し込む形で他のキーをマッピングしています。矢印はHJKL。
文字、,./、バックスペースとエンターとスペースは同じ位置なので、普通のキーボードをお使いの方なら英文くらいはすぐに打鍵できるようになります。各レイヤーも、キーがどう収まっているかが感覚的にわかりやすいよう配置しているので、慣れるのもそこまで難しくはないかと思います。
実際TypingTestなサイトで打鍵するだけなら苦労は少ないので、まず大文字アルファベットの打鍵練習(シフト位置と、左シフトと右シフト使い分け)、次にハイフンあたりのレイヤー同時押しの打鍵になれてもらって、徐々に記号の位置や英数切り替えに慣れてもらえば十分実用に耐える仕様になっていると思います。
私も実際に使用して今この記事を書いていますし、設計資料全般の作成、プレゼン資料の作成、コーディング、デバッグ、GUI/CUI操作などひととおり本業の業務をこなしています。決して作ってみたってだけとか、ホビー用途、見た目だけの盆栽キーボードとして設計しているわけではないのは強調しておきたいところです。
改造例
hdbxさんの作例
hdbxさんが改造例の記事を書いてくださっています→自作キーボード LEFTOVER30 を自分好みにカスタマイズ!(Rev.1.3)
とくに鉛シートはすごく有効で、安定感がすごく増して打鍵感、打鍵音も少ししっかりします。ある程度の重さがあることは大事ですね。
さいごに
自分の疎い分野である3Dプリント製品の設計をお願いできたり、デザインや機能面での意見、アドバイスを頂いたりして、今回共同で作業出来たのは貴重な体験でした。自分ひとりだけだとこんな楽しいキーボードにはならなかったと思っています。この場をお借りして改めてyohewiさんとhdbxさんに謝辞を述べさせていただきます。そして買ってくれた方もありがとうございます。